バイカル湖:世界遺産の登録から外される?
19:1828/08/2007

タチアヤ・シニーツィナ、ロシア・ノーボスチ通信社解説員。

 

 

夏の最後の日曜日にロシアでは、「バイカルの日」を祝った。お祝いは、社会団体「バイカル・エコロジカル・ウエーブ(バイカルの環境の波)」の発案で1999年に誕生した。この祝日の期間は、「自然の傑作であり全地球に及ぶ純水の戦略的資源」であるバイカルは、ユネスコの世界自然遺産のリストにすでに登録されている。その領地が湖岸に突き出ている3つの連邦構成自治体、ブリャート共和国、イルクーツク州そしてチタ州、はとりわけ豪華にこのバイカルの日を祝った。

湖は、沈殿物で埋まってしまい、通常1万年から1,5万年したら地球の表面から消えるものだ。2500万年も前に地質構造上の断層箇所に出来たバイカル湖は何らの老化現象の欠けらも見られない。自然が数百万年もの進化の試練を経てこの奇跡的な創造物を作り上げたと言う事実は、学者に、バイカルは単なる湖ではなくて海の胎児ではないかという考えを持たせてしまった。バイカル湖の岸は、年間2cmの速さで広がっている。湖の深さと言えば1620mに達している。遠い将来にはバイカルは、もし人間がバイカルのこの「立身出世」を邪魔しないなら、バイカル湖は海になっているかも知れない。

面積3万1500平方kmを持つ水の鏡バイカルの曲がりくねった三日月型の石のお椀の中には、230億トンに相当する全地球の淡水の量の20%が保存されている。自然は、山やタイガ(密林)の間に、南東シベリアの奥地にこの驚くべき貯水池を隠している。バイカル湖近辺に住む住民たちは、バイカルを、それぞれ自分流の名前で呼んでいる。モンゴル人はこれを「大きな貯水池」と呼び、中国人は「北の海」と呼んでいる。シベリア地方の最初のロシアの探検家たちは、エヴェンク語の「ラーム」、すなわち、「海」を借用した。しかし、最終的には、「バイカル」、つまり、「豊かな海」というチュルク語を採用した。バイカルは、実際、自然から本当にユニークで豊富な環境の世界を賦与されている。湖には、1550種類以上の動物、1000種類以上の植物が生息している。

偉大なるバイカルは、土着の動植物を食べさせ、飲ませ、育てた。これは、すでに伝統的になったお祝い「バイカルの日」のシナリオの中でも示されている。民芸の世界の劇場の再現、学術レクチャーやセミナー、バイカルに捧げる詩と歌、は、バイカルの日にとって変わらぬ出し物になった。しかし、お祝いの本当の意味は、社会が徐々に湖を破滅に導いている種々の危険な問題について忘れさせるためではない。

進化の過程で、バイカルに住み着いた動植物は生息環境の特定の条件に適合した。バイカル湖の水の重要な「看護兵」の役割を果たしているのは、バイカル特有の動植物物である小エビ、カイアシ類プランクトン(Epischura)、及び同族の極小エビ、である。毎年この動植物は、水の表面50cmの層を酸素で濾過、浄化し、酸素で補給している。

20世紀に、人間は、湖のガラスのように脆い体系に介入することを考え出した。1960年代にはクレムリンで、バイカル湖岸の南端にセルローズ(植物繊維)製造コンビナートを建設することが決定された。構想を進展させたのは、当時の国家指導者N.フルシチョフだった。プロジェクトの構想者は、実利的に考えユニークなこの湖を、超耐久性のあるコール天植物繊維、「Product-100」を生産するためにあれほど必要な超純水の貯水池、と見なした。この原料は、超音速航空機や発展する宇宙計画でも必要だった。しかし、セルローズコンビナートが愛国的目的を果たすことはなく、別の解決が発見されたが生産は残った。

多くの著名な社会活動家はコンビナートの閉鎖を執拗に求めたが、事態は科学アカデミー正会員N.ジャヴォロンコフが出した結論で解決されることになった。彼は、コンビナートの排水は、クレムリンで飲まれている水よりきれいであることをフルシチョフに説得させた。彼の言うことは嘘ではなかった。生産サイクル期限の切れたバイカルの水(年間4200万m3立方メートル)は、今日まで、完全にきれいな状態で湖に戻っている。しかし、問題はバイカルへの排水がどれほどきれいであるかではなかった。世界でどこも、ユニークな湖に産業コンビナートを建設しようなどとする計画を受け入れること事態が問題なのだ。今の所はバイカルの強力な自然の可能性は、マイナス要素を持つ作用に対して抵抗する能力を持っている。それでも、生物学者は、Epischuraに、退化の兆候が見られることを指摘している。小エビ類はえらが弱くなっており、甲殻が薄くなっている。これは、最小の量にせよ、それでも湖に流れ込んでいる塩素の影響だ。極小エビたちが作り出そうと勤労してくれる純水の年間生産能力は、学者のデータでは7,5%減少している。つまり、4,5km3立が汚れた水のままであることになる。

災難を防ぐには過激な方法しかあり得ない。それはコンビナートを撤退することだ。しかしどうやってそれをやるか?その周辺に誕生した17000人の人口の都市をどこに持っていくか?しかし、その都市は、バイカルに自分の生活の活動からくる廃棄物を流し込んでいる。問題解決には、政治の意志と、巨額の資金が必要だが、国家はまだそれを全く見つけられずにいる。

9年前にユネスコの世界遺産リストに登録されたバイカル湖は、「危険の中の世界遺産」という別の名前のリストに仲間入りし、登録資格を失うスキャンダラスなチャンス(ピンチ)に見舞われている。ユネスコの専門家たちがバイカル湖に関する「ロシア政府の怠慢」を厳しく非難してからすでに1年以上が経つ。

バイカル湖の運命の心配はロシアの中にもある。従い、バイカルの日に鳴り響く湖への賛歌にはいつもなぜか不安に満ちた嘆きが聴こえて来てしまう。