アジア太平洋地域における ダイナミックで平等なパートナーシップの強化を目指して。
12:1521/11/2008

ロシア連邦大統領 ドミトリー・メドヴェージェフ

この10年間、ロシアはアジア太平洋経済協力会議で積極的にイニシアチブを発揮しながら活動している。ペルーの首都で開催予定のAPECを前に、この権威ある地域連合の占める位置と課題、及び我が国の参加の見通しについて、私の見解を述べさせていただきたい。

 現代の世界は激変している。このダイナミックな変化は、特にアジア太平洋諸国で感じられる。まさにこの地域にこそ、グローバル経済や多国間相互依存の強化のプラス面・マイナス面がすべて顕著に現れる。またこれらの国こそが、より完成された安全保障体制や持続可能な開発の制度の構築なくしては乗り越えられない新たな挑戦に益々直面している。

 我々共通の地域の安定と繁栄への道を模索するために、APECは、益々大きな役割を果たすことができるし、果たすべきであると確信する。今度のリマ・サミットでは、経済・投資・技術協力の優先課題、および、アジア太平洋地域協力の今後の発展の道とモデルについて話し合うことになっている。

 私は、グローバルな金融危機が及ぼす影響の最小化、エネルギー・食糧安全保障を優先テーマと捉えていることを強調したい。

 世界的経済危機の主な原因となったのが、金融市場の均衡の乱れと個々の国の経済政策の不備である。

 国民経済の保護とリアルセクターの安定的活動と銀行制度の速やかな改善のために、ロシアでは、効果的な安定化措置が取られている。危機の影響を最小限にとどめるためのプログラムが作成され、採択された。国内で危機対策を実施する一方、我々は国際協調の強化を重視している。これが、多極的国際金融経済システムの形成という最優先課題の解決のカギであると考える。

まさにAPEC加盟国こそが、世界経済危機を「解きほぐす」責任を大きく担っていくことになる。開発途上国の責任は、未だかつてなく大きい。これまで安定していた経済が大きく低迷している(先進諸国で景気後退の危機さえある)を背景に、開発途上国の高い成長率の維持、APEC諸国の市場における投資誘致の可能性、高い人的技術的ポテンシャルは、この地域が将来的に世界経済の安定的な発展を保障する推進力になることを示唆している。我々の予想では、APECの多くの国々が「危機後の時代」のリーダーに仲間入りし、重要な市場で新たな地位を確立していくことになる。

 ワシントンでの「20か国」サミットでは、世界経済金融構造の近代化に関する一連の提案を発表した。これらの提案を目前のAPEC会議の枠内でも話し合うことが重要である。APEC内の相互貿易高の高い水準は、地域通貨の役割の強化も含め、国際貿易のより柔軟で近代的なシステムを構築する可能性を与えてくれる。

 サミットの議題には、エネルギー安全、食糧不足、気候変動、貿易の安全、企業の社会的責任の向上といった焦眉の問題も含まれている。これらの問題を具体的に話し合い、一致した解決策を策定していくことは、APECの綱領目的に合致している。

 エネルギー安全の問題にも真剣に取り組むことになっている。ロシアは、APEC諸国が燃料価格の変動に抱く懸念をよく理解している。なぜなら、燃料価格は、経済成長率を左右し、喫緊の社会プロジェクトの実施に影響を及ぼすからである。

 石油ガスの世界最大輸出国の一つとして、ロシアは、エネルギー消費者が輸入地域を多様化し、エネルギーの一貫した安定供給を確保できるエネルギー保障システムをアジア太平洋地域に構築するために協力していく。我々は当然、現実的な需給関係に基づいた、炭化水素の安定した予見可能な価格を維持することに関心を持っている。省エネや代替エネルギー開発の分野における共同プロジェクトにも参加する用意がある。

 経済発展の課題の解決に益々大きな役割を果たすのが、環境保護である。このテーマは、APECを含め、様々な国際協力の場で重要なテーマの一つになっている。ロシア側は、この問題に対し責任感を持って臨んでいる。京都議定書の実現への我々の貢献もそのことを物語っている。我々は、国内外で必要な措置を取っている。私は、本年6月、「ロシア経済のエネルギー環境効率の向上のための一定の措置に関する」大統領に調印した。これは、GDPエネルギー消費量を2020年までに、2007年の40%以上削減することを目指すものである。

 食糧問題といった切迫した問題に関しても、効果的な解決に協力すべく尽力している。ロシアは、ユニークな農業の可能性を持っており、国内の需要を満たすのみならず、諸外国をも援助できるよう、最大限の努力をしている。将来的には、世界食糧市場のメジャー・プレイヤーになっていきたい。ちなみに、消費者・生産者両者にとってますます深刻化している食糧問題を受けて、ロシアは、2009年6月初頭、サンクトペテルブルグでの世界穀物サミットの開催に関するイニシアチブを発揮した。

 アジア太平洋地域のゆるぎない経済発展の確かな手段となっているのが、官民のパートナーシップである。これは、APECの枠内でもこれまで以上に重視されている。この数年間、ロシアの提案により発足された非鉄金属ダイアログが実施され、各国実業界の代表が幅広く参加してきた。現在は、ロシアの主導のもと、鉱業・冶金工業に関する専門グループが積極的に活動している。また、APECビジネス諮問委員会におけるロシア経済界の代表の活動もパートナーからいい評価を得た。本諮問委員会の全体会議の一つが本年5月モスクワで開催された。

 ここで、ペルーより提起されたAPECの企業の社会的責任の向上に関するイニシアチブについて特筆したい。これは、共通の戦略的目的、つまり広範なアジア太平洋空間における安定した進歩的社会経済発展の達成のために官民の利益を統合させていくものである。

 ロシアは、このようなアプローチに全面的に賛同し、支持するものである。ロシア経済は、以前よりすでに世界経済に順調に統合している。我々は、貿易自由化や投資協力の発展の問題に関して、APEC枠内における多角的対話を継続していくつもりである。

 協力関係の重要な方向の中に、安全保障問題も残されている。何よりも、これは、国際テロに対する協調対策である。この問題は、貿易経済関係や海路やエネルギー資源輸送に対する深刻な脅威もはらんでいるからである。APECの戦略的に重要なエネルギーインフラ分野の反テロ保護に関するロシアのイニシアチブを実施するには、これら課題解決への協力体制の強化が求められている

 さらにもう一つ焦眉の問題がある。それは、非常事態における協調対策の構築である。ここには、自然災害・人為的惨事の被害の防止と撲滅、及び広範囲に及ぶ疾病に対する対策なども含まれる。ロシアは、こうした分野における運営面・技術面の豊かな経験を持っている。その経験がAPEC諸国に役に立つ経験であることは実証済みである。近年だけとってみても、ロシアの救援隊の協調的な迅速かつ適切な援助が何千人もの人の命と健康を救っている。

 アジア太平洋経済協力の枠内では、汚職対策のテーマも益々盛んに提起されるようになった。他の参加者同様、ロシアもこの分野の活動も極めて重要であると考えている。本年夏、我々は、汚職対策国家計画を採択し、さらに先日は、いわゆる「反汚職法律パッケージ」が国家院に提出された。この方向性においても多面的活動に最大限協力していきたい。

 以上、現在APECが抱える主な課題のみを列挙した。これらの具体的な実現は、コンセンサスと自発性の原則に対するAPEC参加国の忠実性にかかっている。ロシアは、今後もこの原則を固く守っていくつもりである。

 我々は、この地域の統合プロセスに入ることは、我が国の社会経済発展計画のより効果的な遂行に寄与するものと確信している。この関連で、最新技術の分野、及びアジア太平洋地域と欧州間の貨物輸送の「陸橋」構築も含めた輸送プロジェクトの実現における産業協力の強化を重視している。

 地域間関係の拡大は、何といってもロシア・シベリア極東にとって重要である。だからこそ、ロシアが議長国を務める2012年のAPECをウラジオストクで開催することが決定されたのである。我々は、現在すでに積極的に準備を開始しており、新しい工夫もこらしながら、これまでの極東地域におけるAPEC実務レベルの会議の開催経験も生かしていきたい。

 2008年のAPECに対する議長国ペルーのエネルギッシュな主導やペルー政府によるサミットの充実した議題の準備を見ると、会議の成功を確信することができる。APECの権威、そして、国民の繁栄を目指した協力への関心、焦眉の問題解決に対するAPEC特有の責任あるアプローチは、年々さらに高まっていくのみと確信している。これこそが、我々の共通の、安全で繁栄するアジア太平洋空間の建設における成功のカギである。