ロシア、火星衛星船の研究を復活
21:0518/07/2008

 

ユーリー・ザイツェフ、ロシア科学アカデミー、宇宙研究所専門家。

ロシア・ノーボスチ通信社に寄稿。

 

 

今から20年前の1988年7月7日と20日に、当時のソ連は、2台の自動惑星間宇宙船Phobos-1とPhobos-2を火星の表面と大気を研究するためにバイコヌール宇宙空港から打上げた。このプロジェクトの主要課題は火星衛星船Phobos、古代ギリシャ語で恐怖という意味、の研究にあった。しかし、この研究では多くの課題が検討されていた。人工衛星の軌道からの「赤い惑星」や太陽の研究そして飛行ルートと火星周辺の空間のプラズマ測定も研究課題に含まれていた。第1船でFobosの研究が成功に終わった場合には、別の火星船ジェイモス(ウージャス)の第2番目の宇宙船による研究も自由選択として検討されていた。宇宙船内には、14ヶ国とEuropean Space Agency(ESA)の学者により共同開発された学術装置の複雑な総合設備が設置された。

 

残念ながらプロジェクトを完全に実現することはできなかった。1988年の9月初めに「Phobos-1」との通信機能が失われた。これは宇宙船への指令を出した操作員のミスのために起こった。その結果、方向指示系統が切断し、太陽電池が発光体から「それてしまった」。船内のシステムのエネルギー取得が減少し始め、そのことが判明するまでに惑星間宇宙ステーションは地球から強力な無線信号を送っても反応せず、如何なる命令も遂行が不可能になった。

 

「Phobos-2」は軌道をすみからすみまで問題なく稼動し、火星に近づいてから、大量のデータを収集した。しかし、火星表面へ着陸船を上陸させ、詳細なテレビ撮影を含む総合研究を遂行するために火星宇宙船に接近した後、宇宙船との無線通信は停止された。

 

総じて言えば、悪名高い「人間的要素」が発生してしまい、宇宙技術の作業を遂行する上で中断を余儀なくされた。この中断が、結果的に、「Phobos」プロジェクトはロシアの宇宙飛行学のその後に起きる長い間の危機の出発点になった。

 

次の火星探検「火星-96」の準備には約8年も費やされたが、その多くの原因は国内に起こった改革プロセスにより引き起こされた全社会的及び経済的大混乱のためだった。新しい惑星間宇宙船は学術装置の構成と質量においては遠い宇宙を研究する自動設備としては他に類を見ないものであった。しかし、加速ブロックの不調のために、新宇宙船は火星への飛行の軌道に乗ることすらなかった。

 

ロシアの学術的宇宙開発にとっては暗い日々がやって来た。惑星の研究資金は最小限に抑えられた。その一方、アメリカとヨーロッパは定期的に火星に自分の観測船を打上げている。「赤い惑星」の表面はすでに数年間アメリカの火星面車が横断している。ところで、その火星面車の原型はとうとう宇宙に出ることがなくロシア科学アカデミー宇宙研究所博物館に中に避難所を見つけたロシアが開発したものである。

 

しかし、現在、状況は良くなっている。その実現が2009年10月の自動惑星間ステーション「Phobos-Grunt」(Phobosの土)の打上げにより開始されることになっているロシアの段階的火星プロジェクトが作成された。宇宙装置をモジュール化して製造しすでに使用された技術決定を最大限に利用することによりこの探検プロジェクトの費用は約150億ルーブル(6400万ドル)になり、世界の規準から見ればそれほど高くはない。「火星-96」と異なり、新しい宇宙船は、重量型で高価な「プロトン」型打上げミサイルではなく高射型中型ミサイル「ゼニート(高射)」で軌道に打上げられる。プロジェクトの主要目的は、火星衛星船の表面から土を採取することだ。

 

Phobosは、そのサイスが小さいながらも(全部で直径軌道が20km)、地球や他の太陽系の惑星の発生謎やその他の秘密を解明するのに役立つ研究のために極めて興味ある宇宙装置である。問題は、惑星は長い間の存在で火山活動、内部の加熱などで非常に多く変化しているが、惑星と違い、小さい天体はこのような変化の影響をあまり受けていないことだ。従い、Phobosの残存物の研究は、太陽系惑星がどのように形成されたか原点になる自然状態を理解するのに役立つことになる。

惑星間飛行の過程と火星船の表面の研究のためにステーションには非常に多くの学術装置が設置される予定だ。その構成には、「現場」での土壌の組成の研究、及び人工衛星軌道からの火星の遠隔観測のための計測器がとりわけ挙げられる。これらの研究や実験の重要な課題の1つは、火星表面に宇宙装置を着陸させ、次に接触研究を行なうのに最も可能性のある地域を選ぶことだ。

 

ステーションに装着される学術装置の最終リストはまだ詳細が詰められている段階だが、研究の全体計画は決定している。火星への長距離飛行は約10ヵ月掛かる。火星に着いてから、宇宙装置はPhobosの軌道に近い軌道に沿って火星の周りを数ヶ月回り、様々な研究を行なう予定だ。

 

その後、土壌の採取が最重要課題である火星宇宙船の着陸が行われる。その宇宙船が地球に向けて出発してからも、ステーションは作業を止めず、最低1年間はPhobosと火星自身の学術情報を送付する作業を続けることになっている。

 

ロシアの火星研究の提案されている第2段階は、「Phobos-Grunt」プロジェクトを遂行する過程で選ばれる火星表面の地域で地表に接触した実験を行なうことになっている。この目的のために火星に恐らく火星面車を届けることになるだろう。

 

3番目の段階として、使命の一環の中に「火星-Grunt」(火星土)が計画されている。その使命の主要課題は火星(惑星)の物質のサンプルを地球に届けることである。

 

「Phobos-Grunt」用の宇宙装置の設計開発の主要組織である「S.A.ラヴォチキン記念科学生産合同」所長兼設計総長のゲオルギー・ポリシュクは、現時点では、使命を成功裏に果たすための重大な障害はない。プロジェクトの準備は完成に向けて最終段階に入っているとの意見を持っている。

 

ロシアの学者にとってPhobos研究は西側の学者がまだ手を就けていない素晴らしいニッチ(隙間)の分野だ。しかし、2009年にプロジェクトが実現せず、弾道学の見地から地球と火星の相対位置があまり都合の良くなくなる2009年よりも遅い時期にずれ込んでしまったら、著しい損失が発生するだろう。その場合の損失は学術的なものだけでない。道徳的かつ政治的にも大きな損失を蒙るだろう。なぜならロシアはまたしても外国のパートナーの前で自分の公約を果たせなかったことを見せ付けてしまうからだ。