「ガスOPEC」の経済的プラスと政治的マイナス
16:3308/02/2007
経済修士、ロシア科学アカデミー国際経済政治研究所主任研究職員イーゴリ・トムベルグ執筆


先日の休日にテヘランで行なわれたロシア連邦安全評議会秘書官イーゴリ・イワノフとの会談でイスラム共和国イランの神学指導者アヤトル(師)・アリ・ハメネイは、周知の如く、ロシアと共同でガス分野での協力に関する組織を創る提案をした。ハメネイ師は「両国はガスの分野でOPECに似た協力機構を設立することが可能である」と述べた。
最初の反応から、大部分の観測者にとっては、イランの精神的リーダーの提案は経済的というより政治的性格を帯びたものだ。

このような提案が響き亘ったのは始めてではない。イランの大統領マフムッド・アフマディネジャドは2006年6月に上海で行なわれたロシアのプーチン大統領との会談で、アフマディネジャド大統領の言葉を借りれば、ガス価格だけでなく地球規模の安定確保のために主要な供給の流れの決定の観点から協力を提案したとのことだ。
この構想は先週のロシア産業エネルギー相ヴィクトル・フリスチェンコのアルジェリア訪問の際にも論議されたことは注目すべきだ。将来の組織について凡その地理的な輪郭すら立案された。上述された3国に我々はさらにカタールも加盟も可能性ありとみなしている。この将来のカルテルの資源力は想像を上回るものがある。この4ヶ国で全世界の30%以上を産出する。しかも、埋蔵については証明されているだけでも60%以上を占める。それは世界の石油埋蔵でOPEC諸国のシェア約68%に匹敵する量だ。
昨年の11月にThe Financial Times誌に公表されたNATOの経済専門家により作成された極秘の分析報告書の抜粋には、OPECのガス版の機構には、アルジェリア、カタール、リヴィヤ、ロシア、中央アジア諸国そしてイランが加入すると伝えられている。希望があれば、さらにリヴィヤ、モーリタニア、マリそして中央アフリカ諸国数ヶ国が加わる可能性がある。いずれにせよ、ヴィクトル・フリスチェンコのアルジェリア訪問でこれらの国に多大な関心を示したのはガスプロムだ。
昨年、「ガスOPEC」を設立しようとする呼び掛けはさらに声高々になった。この声明の主な理由は、EU諸国のエネルギー政策の不満であった。EUのこの分野の現在の戦略は、本質的には、ヨーロッパ人にとって伝統的な「分割せよ、そして統治せよ」の原理を利用しガスの生産国をばらばらにし消費国側が統合するカルテル的な試み、換言すれば、消費国が納入国に価格を命令することができる条件を設定する試み、を企てる政策を採ることだと言える。
マスコミや政治家及び専門家のインタヴューでの報道の数や全体の感じから判断すると、「ガスOPEC」の構想は徐々にロシアでも理解されるようになっている。慎重の度合いは異なるものの国会の下院や上院の多くの議員(ウラジミル・メディンスキー、ヴィクトル・オルロフ、アレクセイ・ミトロファノフ、ゲンナーディー・セレズニェフ...)も支持の立場を取るようになった。全体的な意見は、ガス生産国の統合は、健全な考えであり、ロシアにとって将来的に利益になるものだとなっている。マスコミからアンケート調査を受けた専門家の大部分も似たような見解を支持すると回答している。公式の政権はというと、全く反対の立場を取っている。最近のアルジェリアへの訪問の過程でヴィクトル・フリスチェンコは、ロシアとアルジェリアは「ガスOPEC」の設立に反対であることを表明した。「我々はカルテル協定の道順で動くべきではない」とフルスチェンコは言明した。
今の所、イランの精神指導者の提案にはロシアの最高権力側は何も反応していない。それは全体的に判る。クレムリンが断定的かつ明確に回答すれば、どのような回答であろうと、地球規模で世界の政治に直接の影響を与えてしまうだろう。クレムリンではどうやらそこまで準備できていないようだ。従い、クレムリン側からの反応は、経済発展貿易省の匿名の役人のロシア・ノーボスチ通信社へのインタヴューのみに限られている。その役人の言葉からは、経済発展貿易省では、問題の審議すら時期尚早と見なしているとの結論を導き出すことができる。
経済発展貿易省の反対の本質は、OPECの活動が産油国の石油生産の割当てを目的としていることに尽きる。ロシアのガス分野ではこれは全く必要ない。ロシアでのガスの生産は、ガス田の可能性と国内外で急速に増大している需要に縛られている。加えて、ガスプロムは、長期的な輸出契約に束縛されており、これはガスプロムの当然の活動針路だ。OPECはといえば、1960年に、アメリカや他の西側諸国と対立する構図の中で、産油国が政策を調整する手段として設立された。
今回の場合、経済発展貿易省の立場は、そうでなくともヨーロッパ市場の4分の1と輸入量の半分をまかなう「ガスプロム」の見解と合致する。「ガスプロム」にとって現在、他の納入国との形式的な連帯は全く必要ないのだ。しかし、これは、ガスが長期契約を遂行し増大する対外需要を満たすのに十分存在する現在の話だ。尤も、例えば「ロシア統一電力システム」社(ロシア語略称PAO ЕЭС)などは制限するようになっているが。問題は、ガス生産、とりわけ「ガスプロム」社の生産が需要の増大のスピードに明らかに追いつかなくなっていることだ。この条件では、輸出を割当てて置く事は、輸出用のガスがなくなった時「面子」を救うだけでなく、ガス価格の高騰(または価格の高止まり)お陰で輸出の高収益を維持する手助けにもなりうる。グロ-バルなエネルギーバランスの観点からは、度を越した需要という条件では、ガスの割当ては、ガス市場発展にとって障害になるよりもプラス面の方が多いだろう。
あらゆる政策や分析は、ガス、カルテルの、「ガスOPEC」の構想の一要素と政治的関連を直接に分割することに特に努めている。ハメネイ師の提案は、経済的というより政治的性質を帯びていることは全く明らかだ。滑り落ちていく人気の中で支持率獲得を求めて、ブッシュ政権はそれでもイランの現実あるいは構想の各施設へのピンポイント攻撃を行なう決定をするのではという脅威が存在する。従い、イランにして見れば、将来の同盟国を見つけ、国の発展に影響力を与える推進力がイランにはあることを示すために、ありとあらゆる手段を始動させることに努めているのだ。
ロシアにとって現在、イランやアルジェリアとのカルテル設立は、西側へのむき出しの挑戦、しかも、エネルギー分野だけに留まらない、挑戦になる恐れがあることは明らかだ。しかし、このようなカルテルは将来的には十分可能性がある。今のところ長期契約が世界のガス市場の活動に決定的な役割を果たしている。そして、契約の大部分はガスパイプラインを経由して実現することになる。しかし、液化ガスの貿易の増大の急進的なテンポについても忘れてはならない。世界の液化天然ガスの需要の増加テンポは、通常ガス(気体)の需要増加のテンポより3,5倍も多い。通常の気体ガスの需要の伸びが年率2,2%であるのに対し液化ガスは7,7%も伸びている。液化ガス市場において売り手と買い手が利害が衝突すれば、まさに、巨大なガス輸出国同士の連携を呼び起こす可能性もある。液化天然ガス市場は、市場の構造上、石油と同一なのだ。この状況をヨーロッパは十分に理解している。
複数の巨大な西側企業は、カルテルに参入する可能性のある国での立場を強化するよう動き始めている。その際、政治的状況を、アメリカの怒りの脅威があろうとも、無視して動いている。つい、2007年の1月29日、ヨーロッパの石油企業Royal Dutch Shell社とRepsol YPF社が、ペルシャ湾のガス田開発する暫定協定をイラン政府と結んだ。協定によれば、イギリス・オランダ巨人とスペイン会社は、イラン南部に、South Pars田での採掘と精製用に稼働される液化天然ガス工場と港湾ターミナルを建設する計画になっている。工場の能力は、年産30億立米のガスを採掘、精製できる。Shell社は、プロジェクト価格は43億ドルと評価している。イランの国営の石油会社NIOCは、このプロジェクトに掛かる出費は50-60億ドルに達する可能性があるとしている。
ロシア政府のイラン精神指導者の提案に対する現実の態度の問題に戻ろう。ここでは、ガス分野でOPEC類似版を設立する構想は、実は、ウラジミル・プーチン大統領が最初の公表者であることを思い起こすべきだ。2002年にトルクメンの大統領サパルムラート・ニヤゾフとの会談で、彼は、中央アジア諸国に「ユーラシアガス同盟」を作りロシアと連帯するよう提案した。しかし、プーチン構想は当時呼び掛けた同盟参加国、とりわけ、トルクメン、から支持を得られなかった。
それ以来、多くが、とりわけ、旧ソ連領地内のガスの配列、が変わった。しかし、もしロシアが、需要国のもっと強固な政策の顔の前にガス生産者の何らかの組織を設立する案を検討するのがロシアなら、始めるのはやはり隣国の中央アジアからであることが必要だ。しかし、具体的で実際的なステップへ構想を最終的にまとめ上げるためには、最も些細なことが足りない、つまり、将来の同盟参加国の政治的意思がはっきりしないことだ。尤も、隣接2国間会談では、これらの国の指導者はこの問題はテーマに入れるべきだとしている。
イランやアルジェリア、その他イスラム諸国がこのテーマに関心を示していることは、トルクメンやカザフスタン、ウズベキスタンを、ロシアとこの問題について話し合うように一定程度動かすことができる。現在、ロシアは、将来の加盟国と、西側市場での、自国の独占的可能性の一部、恐らく、利益の一部を、分け合う必要が出てくることは容易に理解できる。しかし、利益の分け合いは、中央アジア国がガスの納入を保障し、販売市場と最大価格獲得のために不必要に競争しないで、進めて行って可能になる。
2月の半ば、プーチン大統領は、サウジアラビアとヨルダンとカタールを訪問する。そして4月にはカタールで、主要ガス生産国と消費国の代表が集まる。「ガスOPEC」の将来の参加者は、将来の組織の中での自分の行動を各国と調整するための論議をするだろう。恐らく、そこでは、ガスOPECを設立する方向で、組織面の検討についての論議に移って行くことは十分にありうる。