イーゴリ・トムベルグ、
経済修士、及び、ロシア科学アカデミー国際経済政治研究所主任研究員。
ロシア・ノーボスチ通信社に寄稿。
「ガスプロム」社長アレクセイ・ミレルはスロヴェニアを訪問し、その際、同国大統領ダニラ・チュルク及び同首相ヤネズ・ヤンシャと、ガス部門での両国の協力の可能性について協議した。ロシア産天然ガスをスロヴェニア自身に輸出(1978年から行われているが)する問題以外に、同国が「サウス・ストリーム(南ルート)」敷設プロジェクト推進に参加できるかその可能性についても協議された。これは、黒海・バルカン地域でのガスパイプラインの争奪競争ゲームが益々重大な性格を帯びるようになった現在の状況においてロシアにとって極めて重要な交渉であった。
「サウス・ストリーム」は、EUが強く支持しているロシアを迂回しカスピ海沿岸からヨーロッパにガスの納入を目的とするNabuccoプロジェクトに対抗するプロジェクトのことだ。総延長4000kmのNabuccoパイプラインは、地中海湾岸及びカスピ海湾岸の天然ガスを、アゼルバイジャン、グルジア、トルコ、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニアそしてオーストリアを経由してヨーロッパに供給するプロジェクトのことだ。
ガスプロムとイタリアの石油ガスコンツェルンENI社の共同プロジェクトである「サウス・ストリーム」は、黒海を通して、ロシア産ガスを、そして恐らく地中海沿岸のガスもだろうが、ヨーロッパに供給することを目的とする。プロジェクトによれば、このパイプラインは、黒海海底を通ってロシアからブルガリアを経由し、その後、セルビアとハンガリーを経由しオーストリアとスロヴェニアに向かうルートと、ギリシャを経由しイタリア南に向かうルートの2方向に分岐する。パイプラインの年間のガス輸送能力は300億m3だ。建設終了は2012年を予定している。
しかしモスクワは、「サウス・ストリーム」プロジェクトに、Nabuccoを代表とする競争相手が現れるかも知れないことに特に何も感じてない様だ。公式的な立場は単純だ。両パイプラインともプロジェクトに参加する権利を持っている。そしてヨーロッパ人はガス調達源を選択する権利を持っている。両プロジェクトが正常な意味での競争を行って欲しいものだ。しかしロシアには自分自身の資源供給能力に自信がある。
さらに、ロシアを迂回するプロジェクトには資源的な困難があることも見逃してはならない。最近イランが、ヨーロッパへの「ブルー・リソース(青い燃料、天然ガスのこと)」供給の重要供給国として自国の立場を強化しようと重大な外交的、政治的動きを企てていることを見ればロシアを外す迂回プロジェクトのガス供給能力には問題があることが判る。現在イランは自国の政治情勢のためにヨーロッパ諸国との広範なガス協力を十分に展開させる状況にない。しかし、政治情勢が変われば、イランのガスはNabuccoパイプラインのためのガス供給救済者になり得る。いずれにせよ、迂回プロジェクトは資源供給に困難を抱えている。
ソロヴェニアについては、ヨーロッパへのロシア産ガスウウ供給の道の最重要トランジット国である。そして、ガスプロムにとっては、イラン産ガス(Nabuccoプロジェクト)がロシア産ガスよりももっとトランジットするのに魅力的になる状況を作られることは最も希望しないことだ。ウラジミール・プーチンがまだ2005年の秋に述べた「サウス・リング(南の環)」(「ブルー・ストリーム」、そして今は「サウス・ストリーム」、を経由しヨーロッパ南に向けたロシア産ガス供給のトランジットラインのこと)の創設の全体的脈絡の中では特に避けたいことだ。
スロヴェニアでの今回のミレル社長の交渉は、同国のトランジット国としての可能性を協議した去年からの交渉の継続だ。最終目的は、ロシア産ガスをイタリアに供給するガスの回廊を建設することだ。スロヴェニアルートは、(ハンガリーとスロヴェニアを経由して)イタリアへのロシア産ガス供給の将来的な代替ルートになり、ガスプロムにアペニン山脈(イタリア半島を縦断する)市場に進出可能にさせ、さらに、起こり得るイランとの競争の際にロシアの独占的立場を強固にできるルートだ。
プロジェクトの設計能力の1部は、スロヴェニア自国内の需要のためにロシア産ガス供給増強に回される予定だ。スロヴェニアは、自国の電力エネルギー政策を、とりわけ、電力不足に苦しんでいるイタリア市場に参入して、さらに積極的に発展させる意向を持っている。そしてガスプロムは、電力エネルギープロジェクトでも将来的なパートナーの1社として見なされている。2006年には、「ガスエクスポート」は、スロヴェニアのガス会社Geoplin社とのガス供給の長期契約を2015年まで延長した。現在は年間約6億2000万m3の供給であるが、同社は供給を増量する計画である。
ロシアにとって重要なことは、出来るだけ早く、プロジェクトの参加国との立場を確定し「サウス・ストリーム」パイプラインの建設をスタートさせることだ。隣接諸国との緊張した政治関係がすでに、西ヨーロッパへのエネルギー資源の納入の信頼性に問題が出ているからという理由だけを取ってもその重要性は判る。それに今のうちはまだ仮想の段階だが、政治的雰囲気が変わりイランのガスがEU諸国に供給され始めれば脅威は完全に目に見えるものになる。だからこそ、時間的要素が、ヨーロッパ大陸のガス市場でロシアの影響力を維持するためには決定的に重要になるのだ。幸いなことに、今のところヨーロッパ人はガスプロムを信頼ある供給者として信任している。従い、「サウス・ストリーム」もその1つであるガスプロムのメガプロジェクトの参加者リストには新しい協力者が集まるのである。