三菱商事のロシア市場における新たな展望
16:1027/02/2008

三菱商事の前身は1881年ウラジオストクにロシアで最初の事務所を開設した。現在の事務所は1968年からモスクワで機能している。この間三菱商事の名はロシア市場でよく知られるようになった。この会社は貿易、投資、金融の商事会社であり、ほとんどすべての工業部門 - エネルギー資源、自動車製造、テクノロジー設備、化学製品、鉄鋼、天然資源、消費物資、生産融資 - での活動を展開している。三菱商事のモスクワ事務所長の大村哲明氏にロシア・ノーボスチ通信社ヤナ・ミッシェンコがお話を伺った。

 

Q 大村さん、両国の政治関係の深化は経済交流の強化に貢献すると思いますか?

 

A はい、勿論です。ご存知のように、第2次世界大戦が終わってから両国の間には未だに平和条約が締結されておりません。政治的要因が双方の貿易、経済の発展に一定の影響を及ぼしていることは否定できません。政府レベルでの交渉が必要不可欠です。この意味でわたしは最近のロシアのラブロフ外務大臣とナルイーシキン副首相の東京訪問を肯定的にみています。

 

Q ロシアへの投資はリスクがありますか?

 

A わたしは「リスク」ということばは好きではありません。何かに投資をする ことを決める時、われわれはそのビジネスが然るべき形で成り立つことに自信を持たなければな

  りません。日本ではロシアに関してあまり知られておりません、ここから間違った見   方が生じ、多くの日本人はロシアを高いリスクの国と考えておりますが、

これは間違ってます。三菱商事に関して言えば、われわれはロシアへの投資を増やしております。現在われわれはいくつかの分野:日本の消費物資の普及、金融サービスの分野などへの投資の可能性を精査しています。

 

Q 三菱商事にとってロシアの市場は重要ですか?

 

A はい、わが社にとってロシア市場はとても重要です。例えば、三菱自動車の輸出について言えば、来年度ロシア市場は三菱自動車にとり世界最大の輸出先になります。2007年には車の販売台数は10万台に達します。2008年にはこの数字は40%以上あがることを期待しております。

 

Q 最近ロシアではテクノロジーがよく話題になっております。この分野でのロシアとの協力に関して何か計画はありますか?

 

A わたしはロシアとの協力関係についていくつかの分野での可能性を予見しております、例えば、ロシアにとってとても必要な省エネテクノロジー。あとは無論自動車製造、機械製造やハイテクノロジー機器の製造。他の例 - 所謂「温室ガス」排出削減の問題。これは今ロシアにとって重要な問題と思います。環境保護に関する日本のテクノロジーは世界の最先端の分野のひとつです。40年前日本で大気汚染が大問題でした。しかし、われわれは問題を解決し、現在東京の空はいつもきれいな、青い空です。ロシアのテクノロジー開発について言えば、正直なところ、協力の見通しを見極めるのはより困難です。ロシアの科学技術の基盤がしっかりしていることは疑う余地はありませんが、90年代の経済混乱は技術進歩の遅れをもたらしました。技術にはお金が必要ですから。しかし今ではロシアは科学技術活動を再開できる状況が十分に整っております。日本が関心を持つテクノロジーがロシアにあればこの分野の協力を行うことは可能ですよ。相互利益の上に立つ協力が優先ですが。

 

Q ロシアと日本の経済関係の歴史についてお話をお伺いしたいのですが。

 

A 経済関係は1956年の国交回復と同時に再開されました。ソビエト時代には全面的な相互経済関係を発展するのは困難でした。しかし今は全く変わり今や本当のブームです。日本のビジネスマンの間でロシアは注目の的ですが、日本企業のロシア市場への進出は遅れていると言わざるを得ません。長いことわれわれはロシア市場に然るべき注目をしませんでした。が、ここ2,3年は日本のビジネスマン達はロシア市場に参加しなければならないことを実感しました。ですから丁度今がロシアへの注目のピークだと言えます。

 

Q この注目というのはビジネスのことだけですか?例えば日本のプレスはロシアの出来事について関心を示していますか?

 

A 日本のマスメディアはロシアのことをあまり書きません。アジアの国についての情報はたくさん目にしますが。例えば、中国については毎日のように新聞の記事になっていますが、ロシアについて有意義な報道は滅多にありません。更に言えば、良いことはあまり書かず、何か悪いこと変わったことが起きるとそのことばかり詳細に取り上げます。

 

Q 大村さんは個人的にはロシア市場全般、そしてとりわけロシアのパートナーとの仕事をどう思いますか?

 

A ロシア市場・・・そうですね、その強い面は急速な経済成長。こんなに急速に発展する市場はほかに数えるほどしかありません。ロシアは今真の消費ブームです、これは明らかな事実です。もうひとつのプラス面は天然資源の膨大な埋蔵量です。弱い面と言うと・・・ロシアは今のところやはりまだ発展途上にあると思います。ロシアが市場経済を採用してからまだ15年しか経っておりません。この未熟さがまだ感じられます。例えばいくつかの分野では必要なビジネス環境さえ整備されておりません。あと、各地方の発展レベルの格差が目立ちます。発展した地方はたくさんありますがビジネスを行う条件が整っていないまだ経済的に立ち遅れている地方も多い。ロシアのパートナーとの協力についてはわたしは一概には申し上げられません、具体的な会社、具体的な人によるからです。これはロシアに限ったことではなく、日本も同じです。誰かと仕事をするのは難しく、誰かとのビジネスはスムーズです。基準なんてありません。また、ビジネスの中身にもよります。ビジネス関係はさまざまです、天然資源に関する取引を行うのか、コーヒー納入に関する取引なのかでは全く異なります・・・

 

Q 三菱商事がコーヒーを売るということですか?

 

A コーヒーもあるということです。それにコーヒーだけではなく食品分野の商品全体です。驚くことはないでしょう、私たちのビジネスは多様化していると先に申し上げた通りです。日本は小さな国です。食品を輸入しなければなりません。今はもうやっていませんが以前三菱商事はロシア極東地域から海産物を輸入していました。コーヒーについては言えば、三菱商事は南米のコーヒー生産に投資しています。アジアにも供給ソースを持っていますよ。ロシアはコーヒーの需要が高いから私たちはロシアへの供給ビジネスを行います。これはあくまでも一般的な図式です。例えばわが社はタイの澱粉生産工場を経営しています。原料として澱粉はいろいろな分野-食品工業、紙パルプ工業などで使われます。ですからロシアでもこの需要があり、われわれは日本にも供給し、ロシアにも供給しています。このように具体的なビジネスによってわれわれはロシアにとって輸出業者でもあり、輸入業者でもあります。

 

Q 貴社の事務所はどこにありますか?

 

A 実際、三菱商事のロシアの事務所はふたつだけです、モスクワとユジノ・サハリンスクです。モスクワは当然ですがユジノ・サハリンスクはご存知のようにわれわれは大きなプロジェクトを抱えております。

 

Q "サハリンー2"のことを仰っているのですね?

 

A はい、そうです。プロジェクト建設工事は続けられております。ご存知のように若干のエコロジーに関する問題が発生し、作業がストップしておりましたが、われわれは解決策を見つけ、建設工事が続けられております。株主達はプロジェクトの所有権構造を変更することを決め、ガスプロムがプロジェクトのメイン株主となりShell石油、三菱商事、三井物産も共同出資者です。われわれはこのプロジェクトに大きな期待を寄せております。まだ日本はロシアから天然ガスを輸入していませんからね。われわれはこの"サハリン2"から輸入を始める計画を立てております。われわれはこのプロジェクトが実現すればロシアのガスの日本への供給は劇的に躍進すると予想しています。

 

Q 日本のビジネスマン達の仕事の障害となる行政実務的な面での壁はありますか?

 

A このような障害は確かに存在し、行政手続きはとても複雑ですが、これはロシアに限った話ではありません。例えば、わたしはロシアに住んでいる外国人です。わたしはここに住む権利を持っていることを証明するたくさんの証明書を常に携帯しなくてはなりません、パスポート、ビザ、入国カードなどなど、6-7種類くらいの書類です。特にヨーロッパの国と比べるととても厄介です。納税、税関手続き、自動車運転などです。しかし全体的に状況は良くなって来ています。

 

Q 大村さんはロシアで汚職に遭遇したことはありますか?

 

A 汚職はどこの国にも、日本にもあります。日本で役人が賄賂で捕まったと、テレビが頻繁に報じています。つまり、わたしが言いたいのは事実としての汚職はロシアの独占ではないということです。三菱商事に関して言えば、われわれは誠実と良心の原則に基づいて法を遵守して活動を展開しております。そしてもしどこかで汚職の要素を少しでも感じたらわれわれはその取引から撤退します。そしてもし行政的な障害を取り除かなければならない問題であれば、われわれは法の枠内で解決できるよう全力を尽くします。

 

Q このような難しい問題の処理を日本のビジネスマン達に援助する何らかの組織はありますか?

 

A    はい、たくさんありますよ。例えばジャパンビジネスクラブがあります。これはモスクワ在住のビジネスマンだけではなく大使館員や学生などが交流するための親睦組織ですが、中心は勿論ビジネスマンです。強調して置きたいのはこの組織が日本のビジネス援助のためだけにあるのではなく、ここで同胞の人たちが会い、情報交換をして、共通の問題、例えばビザの問題について話し合う場であるということです。

 

Q ロシアの市場で日本の企業はパートナーですか、それともライバルですか?

 

A 活動の分野にもよります。どこかで競争して、どこかで協力して、どこかで力をあわせます。時々競争しますが、それでもやはり私たちは同胞ですから・・・